- クリーニングに出したら、変色したから弁償するって言われたけど、金額は妥当なの?
- クリーニングに出した形見の衣類が紛失して返ってこなかったんだけど・・
- クリーニング弁償金額の計算方法って、どうやって算定するの?
衣類などをクリーニングに出して破損や紛失などが起きた時、弁償金額の算定方法について相談される事が稀にあります。
実際にクリーニング工場で責任者として働き、賠償の話合いに当たってきた経験を踏まえ、弁償金額算定のポイントを解説します。
クリーニング店で事故が起きた際、大半の店舗は「クリーニング事故賠償規準」に基づいて弁償金額を算定します。今回お伝えする内容は平成27年に「クリーニング事故賠償規準」が16年ぶりに一部改訂されていますので、改定内容を含んだ最新版を出来る限り分かりやすくまとめてお伝えいたします。
クリーニング店で弁償の話になったら最初に確認すること
クリーニング事故賠償規準は「全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(全ク連)」が主体となって基準を制定しています。多くのクリーニング店は全ク連に入会していますが、入会していないクリーニング店でも「クリーニング事故賠償規準」で賠償するケースがほとんどです。
というのも、「クリーニング事故賠償規準」は被害者保護を第一に、被害者がたらい回しになる事を回避するという大前提のもと制定されました。委員には学識者、弁護士、消費者代表、損保業界、アパレル業界、百貨店業界など関連業界の代表者で構成され、そこに関連省庁も参加し、クリーニング業者に都合の良い基準にならないよう公平性が保たれていると言えます。
こういった動きをクリーニング店独自で行い賠償金額の算定方法を決めるのは大変ですし、消費生活相談の場でも活用されるほど、既に商慣習として定着している背景があるため、全ク連に入会していないクリーニング業者も「クリーニング事故賠償規準」に基づいて賠償している背景があります。
商慣習として定着した理由の一つに「クリーニング事故賠償規準」の大きな特徴が関係しています。
一般的な物損では、被害者側が加害者に責任がある事を挙証する必要があります。
ところが「クリーニング事故賠償規準」では、一応の過失はクリーニング業者側にあると推定し、この挙証責任をクリーニング業者側にしている点が最大の特徴です。
もし、この挙証責任が消費者側のままだったら、消費者にとって大きな負担どころの話では済みません。
なぜなら消費者はクリーニング業者に非がある事を立証できないまま泣き寝入りするしかないからです。
この最大の特徴が消費者保護の事例と評価され商習慣として定着した最大の理由とされています。
平成6年に制定された製造物責任法(PL法)も、この規定が参考にされている事からも如何に評価されたかご理解いただけると思います。
もし、クリーニング店と弁償の話し合いになった場合、確認すべき最初の項目は
そのクリーニング店が、「クリーニング事故賠償規準」を賠償の算定基準にしているか?
という点をサラッとクリーニング業者に聞いて確認しておく事をおススメ致します。
事故賠償規準は法律ではなく、あくまでも「自主基準」なので、店舗によっては独自で基準を設定しているかもしれません。
基準が違えば話しの内容が全て変わってくるので話合いを進める上で「基準」を確認しておく事は大切です。
勘違いがあってはいけないのでもう少しだけ解説すると、事故賠償規準は法律ではないので法的拘束力はありません。
確かに法的拘束力はないのですが・・・
もし、賠償規準に納得できず裁判を起こしたとしても、民法規定より「事故賠償規準」をベースに裁判が進む可能性が高いという事を知っておいてください。
だからこそ、「クリーニング事故賠償規準」の内容を少しでも知っておく事が重要です。
クリーニング店と弁償の話合いになり、業者が「クリーニング事故賠償規準」で弁償するというのであれば、下記で解説する算定方法を参考にすれば弁償金額を算出できるので、クリーニング店と話し合う前に自分で一度算出しておくと気持ちに余裕が生まれると思います。
クリーニングの事故が発生する背景
クリーニング業者といえば、洗濯のプロフェッショナルです。そのプロが洗濯するのに、どうして事故が発生するのか?という事にも少し触れておきます。
- 化学繊維が急速に開発された事で天然繊維以外の化学繊維が増加
- クリーニング店自体が化学繊維の取り扱いに慣れていない
- 衣類自体の品質、耐クリーニング性が不充分
これらが主な事故発生原因とされています。
化学繊維の急速な増加の影響もありますが、衣類そのものの耐クリーニング性が不充分な商品の増加も影響していると個人的には強く感じています。
クリーニングに出すと「新品」のようになって返ってくるといった間違った認識の方がおられるのも事実で、クリーニングで処理出来る内容とクリーニング店に期待する内容にギャップが生じ、クレームが非常に多い業界でもあります。
クレームの多さゆえ本当の事故なのにクリーニング業者から、まるでクレーマーのような扱いをされ、その対応を巡りトラブルに発展する事も少なくありません。
衣類の変化に気付いた時、多くの方はその理由がわからないため、つい強い口調でクリーニング店に詰め寄ってしまう気持ちはわかりますが、余計な誤解を業者に与えない為にも、まずは冷静に状況の説明を求めるようにしましょう。
強い口調で詰め寄った時点で、クレーマーと勝手に判断してくるクリーニング業者が多いのは、それだけクレームが多い業界だからかもしれません。
弁償金額の算定手順は最初に「平均使用年数」を確認
ここからは、実際に弁償金額を算出する手順を解説します。
例として、今回の事故商品は「3年前(36ヶ月前)に購入した冬物のスーツ」で算定方法を見ていく事にします。
弁償金額を算出する際には、最初に「商品別平均使用年数表」の使用年数を確認します。
単純に表の中からスーツの項目を探し、「使用年数」欄を確認するだけです。
今回の例は、冬物スーツなので「平均使用年数は4年」という事がわかりますね。
商品区分 | 備考 | 使用年数 | 処理方法 | ||||||
品目 | № | 品種・用途等 | 素材 | 特殊 | ドライ | ウエット | ランドリー | ||
背広 スーツ ワンピース類 | 9 | 夏物 | 絹・毛 | 3 | ○ | ○ | |||
10 | 〃 | その他 | 2 | ○ | ○ | ○ | |||
11 | 合冬物 | 4 | ○ | ○ | |||||
スラックス類 | 15 | 夏物 | 替ズボン、スラックス、ジーパン、パンタロン、カジュアルパンツ等 | 2 | ○ | ○ | ○ | ||
16 | 合冬物 | 4 | ○ | ||||||
スカート | 17 | 夏物 | タイトスカート、フレアスカート、キュロット、プリーツスカート、ジャンパースカート等 | 2 | ○ | ○ | ○ | ||
18 | 合冬物 | 3 | ○ |
全掲載の商品別平均使用年数表は➡こちら
平均使用年数がわかったら弁償金額を算出してみよう
平均使用年数がわかったら次に「物品購入時からの経過月数に対応する補償割合」の表を見ます。
今回の事故商品は「3年前(36ヶ月前)に購入した冬物のスーツ」で平均使用年数が「4年」なので
平均使用年数「4」の行を下に見ていき、購入した36ヶ月を探します。
下に見ていくと購入時からの経過月数「36~40〃」が見つかったと思います。
今度は、その枠から右端にある「補償割合」に移動します。ほとんどの場合「B級」で算定されるのでここでもB級の○○%を確認すると「38%」である事がわかります。
当時の購入金額が「10,000円」だった場合
10,000×38%=3,800円
が弁償金額という事になります。
小売価格ではなく、【購入金額】が基準になります。バーゲンなどで購入した場合、バーゲンで購入した際の価格が基準となります。
クリーニング店によっては、この補償割合を最初から下げて交渉してくる業者もいるので、消費者側も知識武装しておいた方が話し合いがスムーズに進められると思います。
平均使用年数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 10 | 15 | 補償割合 | ||
A級 | B級 | C級 | ||||||||
購入時からの経過月数 | 1ヶ月未満 | 2ヶ月未満 | 3ヶ月未満 | 4か月未満 | 5か月未満 | 10ヶ月未満 | 15ヶ月未満 | 100% | 100% | 100% |
1~2〃 | 2~4〃 | 3~6〃 | 4~8〃 | 5~10〃 | 10~20〃 | 15~30〃 | 94% | 90% | 86% | |
2~3〃 | 4~6〃 | 6~9〃 | 8~12〃 | 10~15〃 | 20~30〃 | 30~45〃 | 88% | 81% | 74% | |
3~4〃 | 6~8〃 | 9~12〃 | 12~16〃 | 15~20〃 | 30~40〃 | 45~60〃 | 82% | 72% | 63% | |
4~5〃 | 8~10〃 | 12~15〃 | 16~20〃 | 20~25〃 | 40~50〃 | 60~75〃 | 77% | 65% | 55% | |
5~6〃 | 10~12〃 | 15~18〃 | 20~24〃 | 25~30〃 | 50~60〃 | 75~90〃 | 72% | 58% | 47% | |
6~7〃 | 12~14〃 | 18~21〃 | 24~28〃 | 30~35〃 | 60~70〃 | 90~105〃 | 68% | 52% | 40% | |
7~8〃 | 14~16〃 | 21~24〃 | 28~32〃 | 35~40〃 | 70~80〃 | 105~120〃 | 63% | 47% | 35% | |
8~9〃 | 16~18〃 | 24~27〃 | 32~36〃 | 40~45〃 | 80~90〃 | 120~135〃 | 59% | 42% | 30% | |
9~10〃 | 18~20〃 | 27~30〃 | 36~40〃 | 45~50〃 | 90~100〃 | 135~150〃 | 56% | 38% | 26% | |
10~11〃 | 20~22〃 | 30~33〃 | 40~44〃 | 50~55〃 | 100~110〃 | 150~165〃 | 52% | 34% | 22% | |
11~12〃 | 22~24〃 | 33~36〃 | 44~48〃 | 55~60〃 | 110~120〃 | 165~180〃 | 49% | 30% | 19% | |
12~18〃 | 24~36〃 | 36~54〃 | 48~72〃 | 60~90〃 | 120~180〃 | 180~270〃 | 46% | 27% | 16% | |
18~24〃 | 36~48〃 | 54~72〃 | 72~96〃 | 90~120〃 | 180~240〃 | 270~360〃 | 31% | 14% | 7% | |
24ヶ月以上 | 48ヶ月以上 | 72ヶ月以上 | 96ヶ月以上 | 120ヶ月以上 | 240ヶ月以上 | 360ヶ月以上 | 21% | 7% | 3% |
備考
補償割合の中におけるA級、B級、C級の区分は、物品の使用状況によるものであり次のように適用します。
A級:購入時からの経過期間に比して、すぐれた状態にあるもの
B級:購入時からの経過期間に相応して常識的に使用されていると認められるもの
C級:購入時からの経過期間に比して、B級より見劣りするもの
(例)
①ワイシャツの場合、エリ、袖等の摩耗状態で評価します。
②補修の跡のあるもの、恒久的変色のあるもの等は通常C級にします。
スーツなど、2点以上で一対になっている衣類を出すときの注意点は
利用者が一対のもののうち1点だけをクリーニングに出し、かつクリーニング業者が一対のものの一部であることを知らされていない場合は、クリーニングに出された一部のみの賠償でよいとされています
なお、このケースで一対の全体価格はわかっているけど1点ごとの価格が不明な場合は以下の比率が目安となります。
- ツーピース 上衣60% ズボン(スカート)40%
- スリーピース 上衣55% ズボン(スカート)35% ベスト10%
多くの場合、上記の方法で算定しますが、購入金額も不明、購入時期も不明、衣類が原形をとどめないくらい破損し補償割合が適用しにくい場合などの算定方法も解説しますね。
賠償額の算定に関する特例
賠償金額の算定が難しい場合の算定方式も解説します。
- 洗たく物がドライクリーニングによって処理されたとき・・・クリーニング料金の40倍
- 洗たく物がウエットクリーニングによって処理されたとき・・・クリーニング料金の40倍
- 洗たく物がランドリーによって処理されたとき・・・クリーニング料金の20倍
クリーニング店が衣類を「紛失」した場合、上記の「クリーニング料金の○○倍」が全てに適用されると勘違いしておられる方もいらっしゃいますが、補償割合が明らかな場合は、「物品購入時からの経過月数に対応する補償割合」で算定されます。あくまでも算定が困難な場合に適用されます。
ここでいう「○○倍」というのは、消費税を抜いた金額です。
消費税を「○○倍」することはありません。損害賠償には「消費税」の概念は無い事を知っておきましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。クリーニングの弁償金額算定についてポイントをかいつまんでわかりやすく解説してみました。
クリーニング店が弁償金額を提示する前に自分で弁償計算しておけば色んな意味で対応の幅が拡がると思います。
その他「かたみの品」をクリーニングに出す際は必ずクリーニング出す時(受付時)にその旨を店頭スタッフに伝えておいた方が良い!などありますが、それをお伝えし始めると長い話になってしまうので、とりあえずは今回の事を知っておくだけでクリーニング業者との話し合いには十分かなと思います。
補足情報として
第6条(賠償額の減縮)
(1)クリーニング業者が賠償金の支払いと同時に利用者の求めにより自己物品を利用者に引き渡すときは、賠償額の一部をカットすることができる
となっているので、衣類の返還を求めると賠償金額は減額になる事も念頭に入れておきましょう。
万が一、クリーニングで賠償が生じるようなケースに直面した場合、参考にしていただけたらと思います。
ご不明な点等ございましたらお気軽にお問い合わせ下さい
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